短く安全な現実逃避
引きこもりの自営業者である私は、時世に関係なく、普段ほとんど外に出ない。
しかしなぜか面倒な用というのは重なるもので(しかも決まって作業が立て込んでいるときに)役所やら銀行やら何やら回って、電話を何件かかけて、一回家に戻り、また出かけ、帰ってくると日が傾いている日なんかが2か月にいっぺんくらいある。
ああ、疲れた。とくに仕事も進んでないのに。
こちとら椎名林檎もびっくりのベテランペーパードライバーなので、未だに運転はくたくたになるのだ。
家の駐車場に車を止め、少しシートを倒してぼうっとする。
短くて安全な現実逃避。家に入ったらまた仕事をしなきゃならない。お茶なんか淹れたら立ち上がれない。だからこそ、ちょっとだけ。
本当に本当にこれ以上ないほどの無為な時間。この時間があまり嫌いではない。
疲れきってしまった出張帰りに、帰って早く寝ればいいのに一杯やってから帰りたくなるのと多分似ている。お酒じゃなくても帰ってからとりあえず淹れるお茶、甘いもの、なんかそういうやつ。
東京にある私の好きなチョコレートと珈琲のお店の店主は、そういうものを弱者の嗜好品、と言っていたっけ。
漫画、違国日記(近いうちレビューしたい)では、かくまってくれる友人、と称していた。
- 作者:ヤマシタトモコ
- 発売日: 2019/04/27
- メディア: コミック
そういうものをいくつ持っていられるかで、心穏やかに過ごせる可能性が高まる気がしている。
いつのまにか大人になって、そうそう滅多なことで人にかくまってもらうわけにいかなくなった我々だって、なにかに匿われてちょっと逃げ出す時間が必要だ。
音楽でも、本でも、筋トレでも、食べものでも飲みものでも。それこそ車の中で無為に過ごす5分でも。
一つじゃないほうがいい。そしてできたら人ではないほうがいい。
一方で全く匿おうとなんてせずに、寄り添うことなんて考えずに、圧倒し、ぶちのめしてきてくれるものも最高に魅力的だけれど。
明るいため息をついてドアを開け立ち上がる。なんでもなくて大変な日常へ戻る。なんでもできるように見えるあの人たちは、いったいどんな友人に匿われているんだろう。