噛み合う景色
菜の花が畦道を盛り上げる頃、
稲が植えられる前、
水が張られた田んぼが好きだ。
水面が風で揺れて日差しで光る風景を美しいと思う。
でも、もっと美しいものを見たことがある。
20代の頃、宇都宮市から福島市に住む友達に会いに自転車で行ったことがある。
またか、と思ったかもしれないが、素泊まりした旅館のおばちゃんにリポD貰って誘われたり、自転車が縦に半回転する事故にあったりとか、さして面白い内容ではないので割愛するし、本題はそこではない。
友達に会うという目的を果たし、その翌日には東京に引っ越すというスケジュールの為、深夜の3時に旅館を出た時のこと。
空は晴れていて、明日は満月かなといった具合。街頭なんかほとんどないから月の明かりと地面をブレながら照らす自転車のライト。それとたまに後方から走り去っていくトラックのヘッドライト。
それだけだったと思っていた。
ふと視界の左側から反射する明かりを感じて確認すると、水面に映る月。
水面は田んぼだった。
少しの間、ぼくと併走する空の月と揺れる月。
とても心が楽しくなったし、この為に走ってきたと思えるくらいきれいだった。
日中に見たらなんてことない国道沿いの田んぼなんだと思う。
深夜、快晴、月、風、自分の心持ち、そんなのが歯車みたいに噛み合って見ることが出来たって考える。
だから、もう一度見たい、と思ってもきっと自分の心が見せてくれないと思う。