Re:光合成社会5(終)
ホテルに着くと彼女は上着を脱ぎ、ベッドの上に腰掛けた。
人工太陽光の艶かしい紫の明かりが彼女を照らす。
なんとなく気分的に隣には座らず、ベッドサイドのソファに座り様子を眺める。
すると彼女は通勤用の大きめの鞄の中から、手のひら大のリボンのかかった小さな箱を取り出して寄越した。
「開けてみて。」
怪訝に思いながらも言われるがままにリボンをほどき、蓋を開けると中にはチョコレートがふたつ。
信じられないような気持ちで彼女の方を見やると、彼女はゆっくりとした動作で僕の膝に腰掛け、ふたつのうちの一つを取り出すと
「ずっと欲しかったんでしょ?」
と言い口に咥えた。
嬉しさと安堵感と驚きと興奮で、もうぐちゃぐちゃだ。
甘い塊を二人の体温で溶かし合うように唇ごと貪る。絡まった舌が離れ奥歯で噛むと、変わった芳香の液体が口の中に広がった。喉の奥が一瞬カッと熱くなったが、すぐに甘さと混ざって分からなくなる。
足と足を絡めてベットに倒れこみ、性急に服を脱がし合う。
できる限り優しくして彼女を悦ばせたいと思うのに、気ばかりが急いてうまく落ち着くことができない。心臓は早鐘のように鳴って耳の奥がどくどくとうるさい。
獣のように首筋にかぶりつき匂いを嗅ぐ。
右手で彼女の頬を押さえ耳を舐めながら、左手でキャミソールの裾をたくし上げて右の乳房を弄る。
彼女の気にしてる、僕の贔屓の右の乳房はとても熱く、先端はピンと尖っている。
どんなに撫でようが舐めまわそうが、いつもの微笑ましいやりとりが交わされることは今日はない。大丈夫。時間をかけてまたいつもの二人に戻っていけばいいだけだ。
丸い肩や腰骨のほくろに軽く挨拶をし、中心に触れると、そこはもうほとんど準備の必要がなくなっていた。
今は一刻も早く、彼女と繋がりたかった。
「ごめん、もう挿れていい?」
僕がそう尋ねると、上がった息で彼女が答えた。
「いいけど、今日はこっちにして。」
そう言って両手を広げると、首筋に抱きついた。
向き合った形の体位は顔が見えるし満足度も大きいけど、背面での光合成ができないために下になる側の身体的負担が大きい。
いつもなら行わないそれをしてでも僕を求めている彼女を思うと目頭が熱くなる。
喜んでそれに応じると、彼女は首筋に回した腕にぎゅうっと力を込めた。
彼女の中の気持ちよさと、うなじから光合成ができない息苦しさで頭がふらつく。
回された腕を解こうとすると、手で顔を覆われ、いつの間にかもう一つのチョコレートを咥えた彼女が顔を近づけてきて、舌で無理やりその塊を喉の方まで押し込まれた。
切迫した様子に違和感を覚えて彼女を引き離そうとするも、なぜか腕に力が入らない。
喉の奥ではあの妙な香りのする液体が広がり、思い切りむせこむが刺激が脳を直撃して世界がぐるぐると回っている。
そのまま彼女の上に倒れこむ。
朦朧とする視界と薄れていく意識の中で、彼女が僕の下から這い出て、聞いたこともないような平板な声で言った。
「みんなって、誰?」