交換雑記

交雑してます。6人くらいでやっています。

Re:光合成社会2

チョコレートの使い方について話す前に、彼女のことを話そう。彼女、僕の彼女は、一言で言うと結構いい女だ。

まずそこそこに美人だし、愛想もいい。気が利くコだと仲間内でも評判だし。

面倒臭いことをいちいち言わないし、詮索や干渉もしない。よく笑うし、ほどほどに頭の回転だっていい。

加えて重要なことがひとつ。彼女は僕以外の男と付き合ったことがない。僕以外の男を知らないのだ。

 

 

人類が光合成で生活するようになって以来、セックスは明るい場所で行われるのが当たり前の行為になった。何処かの国の慎しみ深い皇太子が暗い部屋でセックスに耽溺しすぎて深刻なエネルギー不足を起こし、救急車で運ばれたことが契機になったらしい。エネルギーを補給せずに放出し続けていれば当たり前のことだ。それらは一大スキャンダルとして各国で配信され、その皇太子は一命を取り留めたものの、その後表舞台に出ることはなかったし、天窓付きの建売住宅と窓用フィルムが静かに、そして飛ぶように売れた。

 

僕は思うのだが、光合成以前の人々は本当にセックスを楽しんでいたのだろうか。

明るかろうが暗かろうがすることは変わらないことはわかっているけれど、柔らかい陽の光の中で見る彼女の丸く艶やかな肩のラインや、腰骨の上に並んだ二つのほくろやなんかは実に愛らしく、僕の心を和ませる。それらのベースにあるなめらかな肌が徐々に紅潮していく様子はほとんど感動ものだ。

 

その中でも特に僕が贔屓しているのは左右非対称な乳房。

彼女が気にしている、右の小さい方。

いつものようにそちらばかりに愛憮を繰り返していると、これまたいつものように彼女が困ったような顔を上げる。

「やめて。そんなことしてもそっちだけ大きくなったりはしないのよ。気にしているのをわかっててやってるんでしょう。」

「人聞きが悪いな。それに片方だけ小さいのはみんな同じだよ。」

少しムッとして彼女は言う。

 

 

 

「みんな、って誰?」

 

 

 

「大通りの二本向こうにゴリラが壁によじ登ってるビルがあるだろ?あそこの1階のスナックのママ。」

 

ちなみにこのやりとりだって毎度おなじみ。答えは毎回ランダムに変わる。「幼馴染のみよちゃんかな。」とか「高校時代の部活のマネージャー。」だとか。

心臓の位置の関係で胸の大きさが違うのはごく一般的な話だし、くだらない軽口だとわかっていても思わず嫉妬したような顔を毎回浮かべる彼女が可愛くて仕方ないのだ。恋人たちの小さな、誰にも言えない悪ふざけ。意地悪をした後は、きちんと優しくする。

 

チョコレートを使い始めたのはつい最近のことだ。

大学時代、課題で食文化に関するレポートを書いていた時にその存在は知っていたものの、当時の僕には高価で手が出せなかった。今だって別に裕福なわけではないけれど、彼女との時間のためなら惜しくない出費だ。

 

好奇心で破裂しそうになるのを抑えながら初めて口にしたそれは、効果云々以前に極めて官能的な味がした。医療用ラムネとはまた違う。もっと絡みつくような重厚な甘さ。とろける感触。

僕に勧められ懇願され、嫌々と恐る恐るが半分ずつ混ざったような彼女は、一口食べるとパッと目を見開き僕の方を見て、それからちょっと悔しそうに眉をひそめながら

「・・・美味しい。」

と言った。

 

効果のほどはというとちょっと生々しい話になる。

僕の側はというと持続力回復力ともに45%アップ(当社比)

彼女の側はというと感度吸引力ともに40%アップ(当社調べ)

といったところだ。

 

 

そんな風に工夫と試行錯誤を重ねながら関係を積み上げてきた僕たちでも、時には喧嘩になることだってある。

彼女の家に遊びに行き、彼女の父親を紹介された時のことだ。

 

彼女の父親は長年、有名私立中学校の教師をしていて、一昨年から教頭になった。

彼女の母親は彼女が7歳の時に病気で亡くなり、以来男手一つで彼女を育ててきた厳格な人物らしい。絶対に失敗するわけにはいかない。

 

こう見えて案外僕は繊細なところがあり、幼い頃から試験の前や習い事の発表会の前日なんかは緊張して眠れなかった。

彼女の家に向かう日も同様で、ひどい睡眠不足で足はふらつき、頭の中はシュミレーションした会話が延々リピートされ、口は乾いてそれはひどい有様だった。

最寄駅に着く頃にはすでにヘトヘトになり、彼女の家の近くの人通りの少ない公園で水と医療用ラムネを口にすることになった。近頃は特にグルメ派に対する迫害が進んできており、人目を忍ばなければちょっとした経口摂取すら白い目で見られるのだ。ふた粒ほど嚙み砕き水で流し込むとようやく人心地がついた。さあ行こう。早めに出たつもりだったけど、気づけば約束の時間まで間もない。